調音法(音の妨害の仕方)
母音(ぼいん)の「あ,い,う,え,お(を)」の音を声に出したとき、舌は唇や歯茎,上顎などには触れません。母音は唇や舌で妨害しない発声となっています。
母音を発声したときの口の中の様子を見ると、舌の一番高い位置は下の図のようになっています。
なお図は左向きの横顔ですが、これは国際的に左向きで表すことが決まっているようです。


なお、母音の中では唯一「お」だけが円唇(唇を丸める)です。「う」も円唇なのではと思われる方もいるかもしれませんが、日本語の「う」は非円唇(唇を丸めない)の「う」(発音記号:[ɯ])です。これは検定試験でもよく出題されることが多い事項です。
では、円唇の「う」(発音記号は[u])はどこで使われるのでしょうか。円唇の「う」([u])は外国語の発音で多く使われています。
母音とは反対に、子音は息を何かしら妨害することによって音を作り出しています。
その妨害の仕方は、5つに分類されます。
1 鼻音
鼻音は、口蓋帆(こうがいはん)が開かれた状態で、鼻に有声(声帯が震えている声)の息が通ることによって作り出される子音です。マ行、ナ行,ガ行の音が鼻音となります。ただし、鼻音のガ行の場合は特別で、鼻濁音で発声するときだけ、この鼻音グループの一員となります。鼻濁音でのガ行の聞こえ方は「ンガァ、ンギィ、ングゥ、ンゲェ、ンゴォ」のようになります。ガ行もこの鼻濁音で発声しているときは、鼻に有声音が通って発声している状態となります。
調音法が鼻音に該当する表音文字の覚え方ですが、私は以下のように覚えました。
鼻音:マ行、ナ行、「に」、ガ行(鼻濁音のとき)→ 微音マナーに「ガビーン」だ
微音(鼻音)マナーに(マ行、ナ行「ニ」)ガビーンだ(ガ行、鼻濁音)
これは高級レストランでの食事なのに、大きな声で他人の悪口を言い、高笑いしている相手がいて、それに驚き、困惑している様子です。微音で話すことがマナーとなっている場所なのにマナーが悪くて「ガビーン(驚きと困惑のオノマトペ)」だ、と思っているところをイメージしました。
お気づきかと思いますが、「に」はナ行なのに、わざわざナ行から取り出して並べています。これには訳があります。それは、「ナヌネノ」と「ニ」では調音点(子音を作る場所)が違うためです。
また、ガ行ですが、ガ行は鼻濁音での発音と、次に出てくる破裂音での発音があります。つまり、ガ行の調音法は2種類あることになります。
サ行、ザ行、タ行、ダ行、ナ行のイ段の子音を作る際は、口蓋化(こうがいか)という動作を舌が行います。口蓋化とは、舌先をイ段の子音を作るときだけ、歯茎から少し後ろの歯茎硬口蓋に位置をずらすことを指します。つまり、同じ行なのにイ段の子音だけ舌を少し後方にずらして音を作っていることになります。
2 破裂音(はれつおん)
袋に入った食品を電子レンジで加熱する際、封を切らずに温め、「パン」と袋を破裂させた経験はありませんか。これに限らず、私たちは破裂したときのオノマトペ(擬音表現)に「パーン」や「バーン」というようなハ行の半濁音や濁音をよく使います。しかし、なぜパ行やバ行を使うのでしょうか。それは、パ行やバ行の音は口の中で破裂させて作っているからです。
破裂音は鼻への通路を口蓋帆で塞いで口腔内に息を溜め、息が閉鎖した状態を一気に開放することによって作り出す音です。そのため、破裂音の子音は音を伸ばすことができません。破裂音の子音の音を出せるのは一瞬です。
破裂音の覚え方ですが、私は以下のように覚えました。
破裂音:パ行、バ行、タテト,ダデド、カ行、ガ行→ 破裂音「バパーン」殺陣(たて)と家業(カ行)転々(濁点の点々)
破裂音バパーン(破裂音バ行パ行)殺陣と(タテト)家業(カ行)転々(濁点の点々で「タテト」とカ行につく)
イメージとしては、大砲音が鳴り響くようなシーンの映画撮影で、斬られ役の人(殺陣(たて)の人)は家業を転々としながらも撮影に臨んでいるというイメージです。
ここでもガ行が出てきますが、舌を軟らかい上顎(軟口蓋)に付け、息を閉鎖した状態から一気に開放させて発声しているときのガ行は破裂音となります。
また、「チ」と「ツ」、「ヂ」と「ヅ」は破裂音に記述されていません。それぞれ同じタ行、ダ行に属しているにもかかわらず、これらの音は別の調音法のグループに入ることになります。
このうちの「ヂ」と「ヅ」に、「ジ」と「ズ」を合わせたものは四つ仮名と呼ばれています。「ヂ」と「ジ」、そして、「ヅ」と「ズ」ですが、現代では同じ発音となっています。同じ発音なのにどうして違う表記があるのかと言えば、なんと室町時代あたりまで、「ヂ」と「ジ」、そして、「ヅ」と「ズ」は別の発音になっていたようです。今では同じ発音ですが、現代では書き表し方にその名残が出ています。例えば、「ジシャク」と「ハナヂ」、「ズカン」と「ミカヅキ」などです。なお、これらの書き表し方の使い分けをする基準は何かといわれれば、昭和61年7月に告示された内閣告示の「現代仮名遣い」となります。
鼻音のところでも述べましたが、ガ行は鼻濁音で発音するときだけは鼻音のグループとなります。この鼻濁音のガ行は日本の東側であれば、語中で聞かれることが多い調音法です。ところが、日本の西側では語中であっても鼻濁音のガ行ではなく、破裂音のガ行で発声しています。
試しにゆっくりと「ハガキ」と言ってみてください。「ガ」と言うときの調音法がどちらなのかが分かります。「ガ」と言うときに舌が上顎のどこにも付かないときは鼻濁音で発声しています。聞こえ方としては「ハー ンガー キィー」というようなイメージです。反対に「ガ」と言うときに上顎の奥(軟口蓋)に舌を付けて「ガ」と言っている場合は破裂音での発声です。聞こえ方としては「ハー ガァー キィー」というイメージでしょうか。破裂音の子音は音を伸ばせないため、ゆっくり言った場合は子音の後の「ア」の母音で音を伸ばすようになります。
3 摩擦音
摩擦音は口腔内に隙間を作り、その隙間に息を通して作る音です。このため、摩擦音の子音は音を伸ばすことが可能になります。鼻から息は出ないため口蓋帆は閉じた状態となります。
私の覚え方です。
摩擦音:「フ」「サスセソ」「ザズゼゾ」「シ」「ジ」「ヒ」「ハヘホ」→ 摩擦封鎖、残業し、残業中、自費歯保へ
摩擦(摩擦音)、封鎖(「フ」サ行)、残業し(ザ行「シ」)、残業中、(ザ行の語中)自費歯保へ(「ジ」「ヒ」「ハ」「ホ」「ヘ」)
貿易摩擦を封鎖しようと、残業して、歯を食いしばりながら働いているが、残業中に歯が痛くなって歯の保険に自費で入るというイメージ。この後の破擦音にもザ行は出てきますが、破擦音の場合は語頭におけるザ行なので、摩擦音のザ行とは区別して覚えておくと役に立ちます。
「シ」と「ジ」は調音点(音を作る場所)が違うため敢えてそれぞれの行から取り出して並べています。
ちなみに、「はほへ」の調音点は声門ですが、これらは感嘆詞の音になっています。音で表すと「はぁぁぁ」「へぇぇぇ」「ほぉぉぉ」となります。もし、胸に心が宿っているとしたならば、心に生じた感心、感激、感動という感嘆の気持ちを、胸に一番近い声門の音で表しているのも、なんだか偶然ではないような気がしてきます。
4 破擦音(はさつおん)
破裂音を発生させた直後に摩擦音を出して作る音です。
破擦音:「ツ」「チ」「ザズゼゾ」「ジ」→ 破産通知、トップ残業時
(「ハサン」(破擦音)ツ、チ、トップ(語頭)ザ行(残業)、ジ(時))
トップの頭である社長が残業している時に、破産通知をもらうイメージです。
ザ行はこの破擦音と摩擦音にも入っています。その区別はどうなっているのでしょうか。それは、ザ行は語頭となった場合には破擦音となり、ザ行が語中の場合は摩擦音となります。ここではトップの頭である社長が残業しているイメージなので、語頭の場合のザ行だと区別できるようにしています。
5 弾き音(はじきおん)
これは日本語のラ行が該当します。上顎を一回だけ舌で弾(はじ)くことで子音を作り出します。これが日本語のラ行の子音の発音で、発音記号は[ɾ]と表されます。
ちなみに、発音記号の[r]は巻き舌のラ行です。聞こえ方は「ゥラ、ゥリ、ゥル、ゥレ、ゥロ」となります。
半母音
もう一つ特殊な調音法があります。それを半母音といいます。
この半母音とは、舌と上顎の隙間が狭い母音(狭母音)である「い」と「う」の後ろに、別の母音が来るときに作られる音です。
例えば、ダイアモンドのダイアはダイヤとも聞こえます。パパイアもパパイヤと聞こえます。具合(ぐあい)も「ぐわい」と聞こえることがよくあります。
「や」と言うときの舌の動きと、「いあ」と言うときの舌の動きはとても似ています。それゆえ、狭母音「い」の後ろに「あ」が来ると「や」と聞こえる音になります。同様に、狭母音「い」の後ろに「う」が来ると「ゆ」と聞こえるような音になります。また、「い」の後ろに「お」が来ると「よ」と聞こえるような音になります。
(実際に言ってみると分かります。「いあ、いあ、いあ、いあ……」と早口で繰り返し言ってみると「や」と聞こえてきます。また、「いう、いう、いう…」と早口で繰り返すと「ゆ」の音になります。そして、「いお、いお、いお…」も「よ」の音になります。)
このことは、母音であるはずの「い」は、後ろに「あ」「う」「お」が来ると、ヤ行の子音[j]としての役目を果たすということになります。
同様に非円唇の「う」(日本語の「う」は唇を丸めない)の後ろに「あ」が来ると、「わ」と言っているように聞こえます。(「うあ、うあ、うあ、うあ、うあ…」と繰り返しいってみると、「わ」と聞こえてきます。)
このことは、母音であるはずの「う」は、後ろに「あ」が来ると、「わ」の子音である[w]の役目を果たすということになります。
このように母音なのに条件によって子音のように機能させて音を作る調音法を「半母音」と呼びます。
これらの調音法はどこで妨害して音を作っているかという調音点も一緒に覚えた方が得策です。私が考えた調音点の覚え方の一例を載せます。参考になれば幸いです。
※ なお、順番は唇からノドチンコの方に向かっていくように並んでいます。銀湾の雫 「撥音(ん)に異音があるの?」参照
両親、夫婦・パパ・ババ・ママ →(調音点)両唇、フ、パ行、バ行,マ行
失敬、サザン・タダなら →(調音点)歯茎(しけい)、サスセソ、ザズゼゾ、タツテト、ダデド、ナヌネノ、ラ行
稽古、指示・父に →(調音点)歯茎硬口蓋、シ、ジ、チ、二
後攻、火・夜業→(調音点)硬口蓋、ヒ、ヤ行
難攻、香川→(調音点)軟口蓋、カ行、ガ行、ワ
声紋(認証)?はぁー・へぇー・ほぉー→(調音点)声門、ハ、ヘ、ホ