「埠頭を渡る風」解説編⑩ 晴海〔はるみ〕を変えた出来事とは

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風優哉〔ふうや〕を変えた出来事は何だったのか

 国語教育学者の福嶋 隆史さんは、教科書に出てくる小説や物語の基本的な構成は、ほとんど以下のようになっていると述べています。【「国語が日本をダメにする」福嶋隆史著 中央公論新社】

物語の始まり……主人公の心情や人間関係がマイナスの状態  
物語の途中 ……きっかけとなる出来事があり、心情や考え方に変化が出る  
物語の終わり……主人公の心情や人間関係がプラスの状態に変化

 この考えをこの「埠頭を渡る風」の曲に当てはめてみます。そのとき、風優哉〔ふうや〕の心情を変えるきっかけに該当する出来事は何になるでしょうか。
 私は最初、晴海〔はるみ〕のひたむきで一途な思いがきっかけになったのだと考えてました。しかし、確信が持てずしばらくずっと悩んでいました。


 そして、3ヶ月ほど時間が経ち、車を運転しながらこの曲を聴いていたときに、「特徴的なヴァイオリンの演奏は風の音のように感じられる」と思ったのです。タイトルにも「風」という言葉が付いています。そこから、「もしかしてバイオリンの演奏は埠頭を渡っていく「風」を表していて、3回演奏されるのは過去、今、未来の風を表現しているに違いない」と考えたのです。
 しかしながら、それは浅はかな考えだということがすぐに分かりました。3回目が未来だとすると歌詞の内容と合わなかったからです。ただ、ヴァイオリン演奏が「風」を表していることは感覚的に合っていると思えたので、しばらくはヴァイオリン演奏は「風」だ、「風」に違いないと意識して聴き続けました。
 そして、しばらく経ったあるとき、2回目のヴァイオリン演奏の間奏後に風優哉〔ふうや〕が変化していることに気付きました。「急に幼い」の箇所です。ヴァイオリン演奏が「風」を意味しているとするならば、「風」が吹いた後に、風優哉〔ふうや〕が変化していることになります。つまり、きっかけとなる出来事は「風」なのだということに気付きました。でも、1回目と3回目の「風」は風優哉〔ふうや〕に変化を与えたのかと考えると、よく分からなくなり、またしばらく悩み続けることになりました。

 その頃から、松任谷由実さんは歌詞の中に明示していないことを、音楽でも表現しているのではと思うようになりました。風が吹いたということについても歌詞の中には明示されていません。「埠頭を渡る風を見た」とは書いてあります。しかし、これは晴海〔はるみ〕が過去に見た「風」のことです。
 そこから「風」のことをずっと思いなから聴き続け、解明すると決心してから2年近く経った頃でした。ふと、「埠頭って海にあるから,海風と陸風どちらも渡っていくはずでは」と思い付いたのです。だとしたら、風優哉〔ふうや〕に吹いたのは陸風なのだろうか、海風なのだろうかと考えました。港から沖へと遠ざかるイメージの陸風と、沖から港に向かって吹いてくる海風のイメージを歌詞に重ねてみました。その頃には港(埠頭)は晴海〔はるみ〕なのではないかという思いも持っていました。すると、陸風では晴海〔はるみ〕と離れていくイメージが浮かんできます。海風だと沖から晴海〔はるみ〕の方に近づいてくるイメージが浮かびました。

 そのように悩み考えた結果,風優哉〔ふうや〕の心情を変えるきっかけになったのは、海風に吹かれることなのだと確信に近いものを得ることができました。

晴海〔はるみ〕の心情に変化をもたらしたもの

 では、主人公となる晴海〔はるみ〕の心情を変えたものは何なのでしょうか。
 それは、海風に変わった風優哉〔ふうや〕のぬくもりだと考えました。
 車の中で風優哉〔ふうや〕に倒れ掛かることによって感じた温かいぬくもりによって、晴海〔はるみ〕は風優哉〔ふうや〕が海風の風優哉〔ふうや〕になったことを知ります。このことで、晴海〔はるみ〕は二人で進む道(未来)に希望を持つのだと考えました。
 この物語は、二人ともマイナスの心情からプラスの心情へと変化しています。風優哉〔ふうや〕が変化したことによって、晴海〔はるみ〕が変化するという玉突きのような形、連鎖反応的な形での構成になっていると思いました。

 

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