「埠頭を渡る風」解説編⑥ 「青い」が語っている深い意味

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「青い」の意味について考える

冒頭のセリフは本当に素晴らしいです。

 青いとばりが道の果てに続いてる 
「埠頭を渡る風」作詞:松任谷由実(12枚目シングル東芝EMI 1978.10.5発売)

 特に、「青い」の形容詞に深い意味があることが分かったときは驚愕し、自分の浅はかさを痛感させられました。解釈が一筋縄ではいかなかったのです。

「青い」の解釈ですが、3通りあると考えました。

まず、1番目の解釈ですが、

晴海〔はるみ〕が夜空を見て、実際に「青い空だ」と認識しているという解釈です。

この場合の「青い」という形容詞は、ものの性質などを表す属性形容詞となります。

しかし、それにはある疑問が生じました。それは「実際に夜空は青色に見えるのか」ということです。そこで、いろいろと調べてみました。すると、2つの条件が求められるものの、実際に夜空でも青色に見えるときがあることが分かりました。

その条件が以下の2つで、どちらが欠けても青くならないようです。

満月(望月:もちづき)か、小望月(こもちづき:満月の前夜の月)、あるいは、十六夜月(いざよいづ   き:満月の翌夜の月)などの月が出ていて、多くの太陽光を反射している状態であること。
雲がないような乾燥した冬などの澄んだ空気の夜であること

 月は太陽光を反射し、地上を照らします。満月に近ければ近いほど多くの太陽光を反射していることになります。そして、冬などの乾燥した澄んだ空気のときには、太陽光の波長の短い青い光は、酸素や窒素の粒子に当たり、連鎖的に散乱していくそうです。その次々に散乱された散乱光の青い光が目に入ってくるので、私たちは青い空だと認識できるようになるとのことです。(レイリー散乱)
 そして、「寂しく冷たい」青い夜空を作り出す月は、おそらく十六夜月(いざよいづき)だと推測しています。満月(十五夜)の翌夜には十六夜月(いざよいづき)が出てきます。この「いざよう」とは、進もうとしているのを「ためらう」という意味があるそうです。十六夜月は満月の月の出時刻よりも48分ほど遅れて出てきます。その様子を「いざよう」と表しているようです。十六夜月の「いざよう」様子が、二人で進もうとしているのに風優哉(ふうや)にためらいが生じているという状況にしっくりと当てはまっているように思えてなりません。

 前置きが長くなってしまいましたが、1つ目の解釈は、上記の2つの条件が重なり、晴海〔はるみ〕が青い色の夜空を見て「青い」と表現しているということになります。

 余談ですが、他の波長の長い色の光は酸素や窒素の粒子に当たらないため散乱せず、色の認識ができない光のままで私たちの目に入ってきます。
 また、大気中に水蒸気や塵などが多いときは、全ての波長の光がそれらにぶつかってしまい、日中に雲が白く見えるように、空全体が白っぽく見えるようになってしまうそうです。(ミー散乱)

 更に付け加えますが、春や秋の満月の月の出はおおよそ午後6時前後です。しかし、日暮れが早い冬季は満月の月の出も早まります。なぜかというと、満月の日は、観測者を中心とすると太陽と満月が向かい合わせの位置関係になっているからです。それゆえ、西に太陽が早く沈む冬季は、東から満月も早く昇るということになります。

  話をもとに戻します。2つ目の解釈は

晴海〔はるみ〕が見た空は青色ではないけれども、心情を代弁するような青いイメージの夜空だと認識しているという解釈です。

2つ目の解釈の場合の「青い」は、属性形容詞ではなく、「悲しい」「うれしい」などの感情を表す感情形容詞の働きをしているということになります。

 「青」は清潔感、誠実、落ち着きなどのイメージを持っています。しかし、一方で、「ブルーな気持ち」、「マリッジブルー」などと言うように、冷たい、憂い、寂しい、悲しいといった感覚や気持ちを表わす色としても認識されています。     

 この例として、ロンドンの工場のカフェテリアで、壁を青く塗りかえたら、エアコンは前と同じ設定温度であるにもかかわらず、従業員が次々と寒いと訴えたという話【決定版 色彩心理図鑑 ポーポー・ポロダクション 著 日本文芸社刊2020.10.9】があります。「青」は寒さや冷たさを感じさせ、それを体感させる色だとも言えるでしょう。

 そのため、この2つ目の解釈の場合、空は青くないけれども寂しさや冷たさを感じさせるような空だと晴海〔はるみ〕が認識しているという意味になります。

そして、3つ目の解釈は、

晴海〔はるみ〕は実際も空が青く見えていて、その色の「寂しい」「冷たい」イメージを自分の心情と重ね合わせている という解釈です。

私は3つ目の解釈がしっくりくるように感じました。皆さんはどう思いましたか。

その理由については、のちほど。

 

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