「埠頭を渡る風」解説編⑦ 「青い」以降の冒頭一行目の意味

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「青い」に続く冒頭一行目について

 青いとばりが道の果てに続いてる
 「埠頭を渡る風」作詞:松任谷由実(12枚目シングル東芝EMI 1978.10.5発売)

 冒頭一行目に出てくる「とばり」ですが、意味論的に言えば、「室内を区切る垂れ布」のことを指します。この一文には「道」が出てくるので、道よりも大きな空間である空を覆って区切っている布となります。しかし、実際は空全体に布が垂れているような状態にあることを指している隠喩(似ている物などでたとえること)だと分かります。そして、このとばりが道の果てまで続いている状態だと晴海〔はるみ〕が認識しているという解釈が成り立ちます。

 また、道の果てまで続いていることを見ることができるのであれば、晴海〔はるみ〕と風優哉は少し小高い見晴らしのよい所にいるのではないかと推測することができます。

 次に、この文を語用論的に考えてみます。まず、男性(風優哉)と女性(晴海)が出てきます。このときに「道の」という言葉が出てくるのであれば「二人が歩んで行く道」、すなわち「二人の未来」というイメージが浮かんできます。

「に」と「へ」の違いは何か

 「に」の格助詞には意味が8つあります。(日本語文法ハンドブック 松岡 弘 監修 スリーエーネットワーク)
この冒頭一行目の「に」は「移動の方向」という意味で使われています。場所である「道の果て」という言葉の後ろに「に」があることで、-道の果ての方に-、あるいは、-道の果てという場所に-という意味合いが出てきます。
 ところで、この「に」と同じ意味を持っている格助詞があります。それは、方向を意味する「へ」です。
 同じ意味であるならばと思い、この「へ」を冒頭一行目に当てはめてみます。
※これはあくまで歌詞の意味を深く探るための試みであり、松任谷由実さんの作品を冒涜するつもりなど全くありませんので、誤解なきようお願いいたします。
 そうすると「道の果てへ続いている」となりますが、本来の歌詞の「道の果てに続いている」とは意味合いが異なるように感じられないでしょうか。確かに文法的に置き換えは可能です。大筋での意味は変わりませんが、指し示していることが少し変わってくると考えます。

例えば、

A 北海道の函館行ってきた  B 北海道の函館行ってきた  

AとBどちらの表現をするかと言われたら、Aと答える人が多いのではないでしょうか。

A 羽田空港のラウンジ行った   B 羽田空港のラウンジ行った 

 これも、日常会話としてはAと答える人が多いように感じます。

 なぜなのか、この違いを調べたところ、NHK放送文化研究所のwebサイト方向を表す「に」と「へ」というQ&Aを見付けました。それに寄れば、「に」を使うと「他のどこでもない、その場所」という到着点が強調される意味合いが出ると述べられています。反対に「へ」は「方向としてのその場所」という意味合いが強くなるとのことでした。だとすれば、「へ」は、ある方向の範囲に存在する漠然とした場所を指し示す意味合いを持っていることになります。そして、「に」は、ある方向の範囲に存在する場所をピンポイントで絞りこむような意味合いが加わるようになると考えました。

 以上の「に」の意味を踏まえ、前述の「青い」、「とばり」、「道」という意味を併せて考えると、私と進む未来は、行き着く先までずっと,この青く冷たく寂しいとばりで覆い隠されてしまっているという意味になると解釈しました。

 

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