短期記憶・長期記憶に送り込むための強い感情

 短期記憶の情報を一時的に保管しておく領域が海馬です。その海馬へとスムーズに情報を送り込む鍵は感情です。強い感情を伴った感情は海馬へとスムーズに送り込まれます。そして、強い感情を伴った情報は海馬の中でも目立つ存在となり、海馬が長期記憶へと通じる扉の鍵をたやすく開けてくれるようになります。
 強い感情とはどのようなものかといえば、「怖い」、「つらい」、「憎い」「悔しい」「驚いた」「超楽しい」といったものものです。例えば、目の前で突然事故が起きて驚いてショックを受けてしまった場合などでは、忘れたくても忘れられないほどの強い記憶となって残ってしまうことがあります。そして、それがトラウマになってしまう人もいるくらいです。それほど、強い感情というものは記憶と密接に関わっていると言えます。
 巷によくある記憶術というものは、この「驚いた」という感情を利用して記憶しています。

 例えば、象、ジェット機、富士山、シマウマ、注射……といった言葉を順番どおりに覚えるとすると、

ジェット機が迫って象を機体の先端に乗せて飛ぶ。そのジェット機富士山の噴火口に入る。富士山の火口からシマウマの群れが飛び出してくる。シマウマの群と同じくらいの大きさの注射器をシマウマ群れが運んでいる。

 記憶術と呼ばれるもののほとんどが、現実には絶対起こりえないようなことを連想して、ストーリーを作って覚えていきます。現実には全体起こりえないことなので、「驚き」を持って連想することになります。あるいは、あまりに突飛な発想をした場合などは、「笑ってしまうような可笑しさ」を伴うこともあるでしょう。このような、「驚き」や「突飛すぎる可笑しさ」といった強い感情は、短期記憶の海馬から長期記憶の大脳皮質に貯蔵されるまでを円滑に進めるエネルギーになるようです。

 強い感情を伴うと記憶が促進されるならば、普段の日本語教育能力検定の勉強にどのように生かせばいいのかという疑問が湧いてきます。受検用語のすべてを突飛な連想をして記憶するには、突飛な連想を考える時間も必要になります。初めて聞くような用語の名前を覚え、そして、その用語の意味を覚えなければなりません。似た言葉を探し,それを突飛な発想でつなげていくという連想に結構な時間が掛かりそうです。

 そこで、私は「なるほど!そういうことか!納得した!」という感情を大げさに持つようにして覚えていくことにしました。そうすれば、きっと前頭葉がこの情報に対し、「納得した」というスタンプを押して海馬へとスムーズに送り込むと考えたからです。さらには、私の直感のイメージでは、前頭葉が押した記憶消去防止剤の含まれたスタンプのおかげで、この情報は海馬に長くとどまることができると思いました。そして、とどまっている間に、繰り返えされることで、その情報には海馬の前頭葉への通行「可」のスタンプと前頭葉で再生「済」のスタンプが押され、海馬の中で目立つ情報になるに違いないと考えました。やってみると、このような「なるほど!納得!」という感情も、「驚き」の感情に近く、記憶するために有効だと実感しました。

 具体的には「分野別用語集」に載っている解説だけで理解できない箇所があれば、ネットを使って一番分かりやすく書かれているサイトを見付け、分野別用語集の用語解説の余白にサイトの抜粋事項を書き込むという作業をしました。

ジャーナルアプローチの補足書き込み箇所

 写真には「ジャーナル・アプローチ」という用語の解説箇所が写っています。しかしながら、解説は活字量の制限もあるためか、敢えて具体的な断定や明言をしないようにコンパクトにまとめた記述となっています。そのため、どうしても抽象的な表現となっていて、そこだけを読んでも私の頭の中にイメージが浮かんできませんでした。
 そこで、ネットで調べてみたところ、「教師と学習者による交換日記のようなもの」だと書かれていたサイトを見付けました。具体的なので、「そうだったのか!」と思うのと同時に、すぐにイメージすることができました。さらには、他のサイトには、「異文化の生活でストレスを抱えてしまったときなどにも有効な手段である」と書かれていました。そこで、これらの抜粋を「なるほど!そういうことだったのか」と強くオーバーに思い、つまりは「こういうことをしているのだ」と具体的に落ち込んでいる留学生と交換日記をして、元気になるイメージを強く持ちながら、余白に書き込む作業をしたのです。

 初めて聞くようなカタカナ用語ではありましたが、既知である「交換日記」という言葉と結びついたことも相まって「ジャーナル・アプローチ」という用語はすんなりと海馬から長期記憶に送り込むことができたように感じました。

 

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