短期記憶から長期記憶へ打ち上げるには-その2-

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秒速記憶法の活用について考える

 前回の短期記憶から長期記憶へ打ち上げるには-その1-で、長崎 玄弥先生が編み出された秒速記憶法は、れっきとした記憶法だと述べました。そう考えた理由について説明します。

 日本語教育能力検定試験の出題分野に「言語と心理」という分野があります。その中には記憶に関する用語が出てきます。まずは、短期記憶と長期記憶です。短期記憶は一時的に保管される情報のことを指します。この一時的に保管する働きは脳の海馬と呼ばれる領域で行われています。しかし、そこに保管された情報のほとんどは、すぐに消え去ってしまいます。この海馬で行われている広く動的な概念がワーキングメモリと呼ばれるものです。皆さんも難読漢字の読み方など、そのときは覚えていても、時間が経つと思い出せなかったといったことはなかったでしょうか。海馬に一時的に保管されてもすぐに消え去ってしまうことの例だと思います。ところが、漢字が好きな人はどうでしょうか。実は、好きという感情は脳の扁桃体が興奮するため、記憶しやすくなるそうです。この他にも、推しのグループがあるという人にとっては、グループの人全員の顔の弁別、名前、プロフィールまで記憶することは、全く難しくないことであり、むしろたやすいことだと思います。覚えること自体が楽しいとさえ感じると思います。好きなグループのことは、好きだという気持ちが扁桃体を興奮させ、記憶する力を高めさせます。
 なお、この海馬はタツノオトシゴが向かい合っている形に似ているので、海馬と呼ばれるようになったようです。

 海馬は記憶を仕分ける働きもしています。一時的に保管した情報の中から、重要なものと重要でないものを仕分ける働きをするそうです。
 そして、海馬は重要だと判断した情報を大脳皮質に送り込むこともしています。大脳皮質は長い間忘れてはならない情報を入れるための貯蔵庫です。大脳皮質の貯蔵庫に送り込まれた情報は、必要となったときに何年たってもすぐに思い出すことができるようになります。
 海馬から大脳皮質へと行けなかった一時保管の情報は、何もしなければ海馬の中ですぐに消え去ってしまうことになります。

 これらのことを知ったときに、長崎 玄弥先生の秒速記憶法の意味が分かったのです。つまり、秒速記憶法とは、海馬に保管されている情報を、短い期間で強烈に「この情報(英単語)は重要だ」と海馬に思わせるという記憶法なのだと気付いたのです。海馬に「この情報は重要だ」と思わせることができれば、その情報を長期記憶の貯蔵庫の大脳皮質へ送り込むことができます。これは、正にロケットで情報を打ち上げるように、短期記憶の海馬から長期記憶の大脳皮質へ運ぶことになります。それゆえ、秒速記憶法は、短期記憶から長期記憶へ送り込むための記憶法なのだということが分かりました。 

 次に、海馬に「この情報は重要だ」と思わせるまでのやりとりを、前頭葉,海馬,大脳皮質で説明してみます。
 (※あくまでもイメージとしての例えなので、学術的に正しいとは思わないでください)

<通常に繰り返して覚える作業で、海馬が「重要だ」と判断するまでのやりとり>
① 見たり、聞いたり、書いたりした情報が海馬へ集められる
② 前頭葉は海馬に「さっき覚えた情報Aを、ゆっくりでいいから送ってほしい」と連絡を入れる
③ 海馬は要請のあった情報Aに対して、前頭葉まで掛かっている長い橋を歩いて渡るように指示する
④ 海馬は発送要請があった情報Aに通行証の【可】という字の小さいスタンプを押す
  (このスタンプには情報が消え去ることを防止する成分が含まれています)
⑤ 情報Aは橋をゆっくり歩いて前頭葉まで行く 
  (情報Aが着前頭葉に着くと思い出したという状態となる)
⑥ 前頭葉は着いた情報Aに【済】という小さいスタンプを押し、海馬に戻るように指示する
⑦ ②から⑥を何度か繰り返すと,情報Aは小さいスタンプがたくさん押された状態となる。
  (海馬の情報群の中で目立つ存在となる)
⑧ 海馬の一時保管情報群が増えると,海馬は多くスタンプの押されていた情報Aを重要な情報と判断する
⑨ 海馬は「重要と判断した情報A」に「超重要 長期記憶貯蔵 フリーパス」というきらびやかなスタンプを押して、鍵の掛かった扉を開け、大脳皮質の部屋へ行かせる
⑦ 大脳皮質に入った情報Aは、スタンプがフリーパスとなり高速リニアモーターカーでいつでも前頭葉まで行けるようになる

<秒速記憶法を行い、海馬が「重要だ」と判断するまでのやりとり> 
① 見たり、聞いたり、書いたりした情報が海馬へ集められる
② 前頭葉は海馬に「さっき覚えた情報Bを、大至急送ってほしい」と連絡を入れる
③ 海馬はマイクで情報群に向け、「情報Bは前頭葉行きのロケット発射場まで来い」とアナウンスする
④ 前頭葉から情報Bはロケットに乗車できるかどうかの確認の連絡が海馬に入る
⑤ 海馬は発射場まで来た情報Bに【大至急 ロケット乗車可】という字の大きなスタンプを押す
  (このスタンプには情報が消え去ることを防止する成分が含まれています)
⑥ 前頭葉から「乗車可能と分かれば発射の必要はない」と海馬に連絡が入る
⑦ ②から⑥を何度か繰り返すと,情報Bは大きな目立つスタンプが何個も押された状態となる。
  (海馬の情報群の中で目立つ存在となる)
⑧ 海馬の一時保管情報群が増えると,海馬はスタンプが目立つ情報Bを重要な情報と判断して仕分ける
⑨ 海馬は「重要と判断した情報B」に「超重要 長期記憶貯蔵 フリーパス」というきらびやかなスタンプを押して、鍵の掛かった扉を開け、大脳皮質の部屋へ行かせる
⑩ 大脳皮質に入った情報Bは、スタンプがフリーパスとなり高速リニアモーターカーでいつでも前頭葉まで行けるようになる

 海馬に高速での想起を要求することが、覚えたい情報に大きな目立つスタンプを押させる要因となります。
 ただ、この記憶法の弱点は、海馬に一時的にでも情報を入れた状態でないと使えないことです。
 しかし、用語集にチェック欄を設けて八回読み込むことができたのならば、海馬に情報が入り、情報にはある程度小さいスタンプが押されている状況だと思います。
 用語集に付けたチェック欄に、末広がりの八の花が咲いたらば、用語集の巻末にある索引を使い、「説明できるか、できないか」という基準で、1分間で100用語の高速チェックをしてみてください。きっと海馬が大きなスタンプを押し、重要な情報だと判断して長期記憶への扉を開けてくれることと思います。

 

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