「埠頭を渡る風」解説編① タイトルに込められた意味

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「埠頭」とは何を表しているのか

「埠頭」とは港の一部であり、旅客の乗降、貨物の積卸しの行われる場所のことを指します。
物語が晴海埠頭だと仮定すれば、東京湾を埋め立てて作られた人工島が埠頭となっています。「埠頭を渡る風」が制作された当時の晴海埠頭は三方を海で囲まれていました。

「埠頭」の意味はこれだけではないと、三千回以上この曲を聴いた頃から思い始めました。正確に言えば、歌詞の意味が分かってくるにつれて、港の一部という意味だけでは内容と整合しないことに気付かされたのです。


「埠頭」(港)は人を見送り待ち続ける場所です。埠頭は自分から人を迎えに行くことはできません。晴海(はるみ)は、私という存在を風優哉(ふうや)に気付いてもらいたい、という思いを持ってはいます。しかし、強く言うことができません。そのような思いをもっている晴海(はるみ)のことを埠頭(港)になぞらえていると考えました。

そして、もう一つの「埠頭」の意味。それは境界線であり、岐路【分かれ道】、分水嶺(ぶんすいれい)物事の方向性が決まる分かれ目】です。それは「渡る」という動詞から推察しました。

「渡る」とは何を表しているのか

「渡る」…「渡る」は「動き動詞」の中の「動作動詞(継続動詞)」に分類されます。

動き動詞は動作や変化の動きを表し、非過去形では未来の事態を表します。つまり、「渡る」という言葉には「これから渡る」「今から渡る」のような意味が自然と伴うようになります。
(動作動詞は「~ている」という補助動詞を付けると、「渡っている」となり、動きの進行を表すようになります。)

そして、タイトルにある「渡る」という言葉ですが、来るのか行くのかという方向性が含まれていません。複合動詞にして、「渡って来る」「渡って行く」とも表現できたはずです。しかし、松任谷由実さんは敢えて方向性を書き表さなかったのだと推察しています。なぜ書き表さなかったのかと言えば、どちらにも可能性があるという状況を表したかったのではないかと考えました。どちらにも可能性があるので、分かれ道、そして、風という流動性のある現象と考えれば境界線ということも浮かんできました。

「風」は何を表しているか

 タイトルの「風」は解釈編(登場人物等について)で述べた中の風優哉(ふうや)自身を指していると考えました。風は自由に吹き渡ります。「風任せ」という言葉もあるくらいです。勝手気ままな側面も出てきます。ただ、ここでは「埠頭を渡る」という修飾節が着きます。気ままな風にこの修飾節が付いていることで、どっちに吹くかという判断を迫られているようなイメージも感じられました。

タイトルの意味

 以上のことを踏まえ、港が晴海〔はるみ〕で沖の帆船が美帆〔みほ〕、風が風優哉(ふうや)というように当てはめてみました。そうすると「埠頭を渡る風」のタイトルには「これから、あなた〔風優哉〕は沖〔みほ〕から埠頭を渡って港(私)に来るの?それとも、港〔私〕から埠頭を渡って沖〔みほ〕に行くの?」と問い掛ける意味が含まれることに気付いたのです。そして、このときの埠頭が、判断するための境界線や分水嶺となっている場所なのだという考えに至りました。これによりな風優哉〔ふうや〕が岐路に立ってどちらに進むのか悩んでいるようなイメージも浮かんできます。
 そこから、解釈編に載せているように、タイトルの「埠頭を渡る風」を「岐路に佇む風のあなた」と解釈してみました。
 ちなみに「風のあなた」という名詞と名詞をつなぐ「の」は、同格の意味で使っています。名詞と名詞をつなぐ「の」は5種類(所有格、内容説明、位置基準、作成者、同格)あります。同格の「の」は、「商品の時計」、「社長の高木」、「首都の東京」、「私の幻灯」(宮沢賢治:やまなし)など、「の」を「である」に置き換えることができます。
 そして、同格での「風のあなた」の意味は、「風そのものであるあなた」となります。

しかしながら、このタイトルの解釈は歌詞の解釈が仕上がった最終段階で分かったことでした。歌詞の解釈ができなければ、このような考察はできなかったと思います。

これらの意味を「渡る」というたった一言に込めて表した松任谷由実さん。本当に本当に驚愕させられます。

 

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